2024年9月1日に論文「ドイツの医療デジタル化の新たな段階とその見通しー2024年デジタル法の成立とその評価ー」を新たに掲載しました。
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概要は、以下の通りです。
ドイツの医療デジタル化の新たな段階とその見通し
ー2024年デジタル法の成立とその評価ー
ドイツの医療デジタル化は、長らく他の先進国の後塵を拝してきた。これが急速に展開し始めたのが2019年から20年にかけての法整備で、とりわけ患者データ保護法は患者主権の理念の下に、電子被保険者カードからさらに電子患者レコードの整備に向けての体系的な基盤整備の見通しを示した。
しかしながら、医療情報ネットワークの中核を成す電子患者レコードについては、2021年1月から提供が開始されたにもかかわらず、その利用者はなお1%にも満たない。
こうした状況を踏まえ、2021年秋の総選挙で誕生したSPD、連帯90/緑の党とFDPの3党連立政権は、2024年に医療デジタル化加速法と医療データ利用法を成立させた。これにより、2025年1月からは、電子患者ファイルの設置を従来の本人の申出方式(Opt-In)から本人が異議申立をしない限り自動的に設置するOpt-out方式へと大胆な転換を図った。また、暗号化方式やデータ搭載ルールも変更し、本人認証手続きを簡略化するなど、データ保護から利用のしやすさや研究・医療産業の振興へと大きく軸足を変更する改正を行った。
この改正により、電子患者ファイルの利用などは急激に拡大普及し、利用しやすさも向上すると見込まれるが、他方で、このような患者データ保護法の中核的な理念の軽視に対しては、連邦データ保護受任官が深刻な懸念を示し、連邦議会に対して多くの法案修正意見書を提出したが、連立与党はその指摘はほぼ無視する形で法案を成立させた。
この問題の根底には、医療や健康という高度に秘匿性が高い個人情報の保護と、患者や医療機関の日常的な使いやすさ、研究者、開発業者などによる医療データの加工、分析、開発、産業振興などの要請とをどう両立させるかという、日本を含め、各国共通のディレンマ、課題が存在している。今回の大胆な転換が、今後ドイツ社会でどのように受け止められ、医療デジタル化への信頼と受容が進んでいくのかなど、今後の運用の展開と課題を引き続き注視したい。