2024年10月5日付けの中国新聞の「今を読む」欄に「マイナ保険証押しつけ 医療現場の混乱を招く 撤回せよ」と題して寄稿しました。
中国新聞のデジタル版に掲載された記事については<デジタル版>を参照下さい。なお、デジタル版を読めない方は、個人利用に限って、<PDF>をご覧下さい。
個人番号カードと保険証の一体化(マイナ保険証)の問題については、その構想が発表され、具体的に健康保険法等の一部改正法が可決された2019年以来、22年までの間、追加の制度改正が行われるつど、問題点を指摘し、見直しを求める論考を週刊社会保障誌の「時事評論」に5回にわたって掲載してきました(具体的な論考については<こちらの76ページから82ページまで>をご覧下さい)。
マイナンバーの問題については、一般紙の中では、個々の記者や編集委員の問題意識は別にして、新聞社としての組織的な問題意識と継続的な報道という面では、私の知る限り、東京新聞の取り組みが群を抜いてシャープです。情報システム学会の声明もその記事を通じて知りましたし、アンケート調査なども積極的に実施し、報道しています。各社とも、強引な政府の進め方に疑問を持ちつつも、デジタル化一般の趨勢や、コロナ渦での日本の医療のデジタル化の遅れなどを見て、正面から批判的な立場には立ちにくいのだろうと思います。
しかし、それにしても、この数年間の政府のマイナ保険証のごり押し、アメとムチの繰り返しは、かつて行政官を経験したことのある私でも、あまりに度を超えた無理筋で、デジタル化のメリットという夢物語で納得することは到底できません。
2023年10月10日の情報システム学会マイナンバー制度研究会の<「マイナンバー制度の問題点と解決策」に関する提言> は、本文26頁に及ぶ大部のものですが、3頁の<要約版>もあります。導入初期の紐付け誤りなどの問題と根本的な設計不良に起因する本質的な問題に分けて、専門的に詳細な分析と評価を行っています。
私は社会保障の制度設計に関わってきた者として、マイナ保険証の深刻な問題点を理解しているつもりです。しかし、社会保障や医療に関わる専門家や学会がこの重大な問題について奇妙な沈黙を守る中、本来はデジタル化で恩恵を被るIT業界やデジタル庁などともさまざまな繋がりがあり、それらを通じて陰に陽に圧力を受けることも想像できる情報システムの専門家集団が、この問題に対して勇気を持って問題提起されたことを高く評価し、また深く尊敬します。ぜひ、この投稿をご覧の方には、直接にこの声明をお読み頂き、問題の深刻さを理解頂ければと思います。
絶望のインパール作戦で数多くの不条理な戦死者を出した旧日本陸軍について、これと戦ったイギリス作戦将校は、「日本軍は基本的な戦略の誤りを正す道徳的勇気を欠く」と語ったと伝えられます。いかに政権交代もなく弱小野党を軽視しているとはいえ、最近の政府や官僚の目的のためには手段を選ばない度を超えた強引な政策遂行の姿勢には、民主制の根本に据えられるべき国民生活への眼差しと敬意がまったく感じられないことを残念に思います。こうして政治不信や行政不信が澱のようにどんどん沈殿していった先には、何が待っているのでしょうか。
“2024年10月5日付け中国新聞の「今を読む」に「マイナ保険証押しつけ 医療現場の混乱を招く 撤回せよ」と題して寄稿しました” への2件のフィードバック
日本のマイナ保険証の問題点については承知しました。アメリカやドイツなどデジタル化先進国における保険証制度は日本と比較してどうなっているのか、ご教示ください。
岩井篤さん;
早速コメントを有難うございました。
ドイツの医療デジタル化については、投稿中でもリンクを張っている「時事評論の論考集の電子ブック版」の73−73ページで概要を紹介しています。その基礎となっている詳しい論文は、2023年執筆の「ドイツの医療デジタル化と患者データ保護ー患者主権の確立と日本への示唆」を、<研究業績>のプルダウンメニューの<田中耕太郎アーカイブ>に掲載しています。念のため、URLはhttp://www.mcw-forum.or.jp/image_overseas_information/DL/6_2023.pdf
です。他の国については詳細は承知していませんが、少なくとも、日本と比較可能な程度の規模を持った先進諸国で、国民背番号カードに保険証機能や医療情報まで掲載している国はないと承知しています。